ライナー・フェルストの『ニュルブルクリンク』 - 世界初のアーケード3Dカーレーシングゲーム、ドイツ製!

子供の頃に見た、謎の3Dカーレーシング・アーケード。それを誰が作ったのか、ついに明らかになりました。彼は1975年にドイツでそれを発明したようで、後にアタリにコピーされ、世界初の3Dアーケード・ドライブビデオゲームといわれている『ナイトドライバー』になったのです！

幼少の記憶から：

子供の時分（1982年頃？）、ふたつのショッピングセンター（ドイツの都市ブレーメンにある「ハーティ」と「カールシュタット」）で、私は『ニュルブルク・リンク』という名の不思議な3Dカーレーシング・アーケードマシーンを見たのです。カールシュタットでは「フォローミー」という名の10代向けファッション売り場にありました。ここは天井を近未来的に空調パイプで飾り付けていて、多数のビデオゲーム機（アタリVCS2600、インテレビジョン、フィリップスG7000など）を置いて子供たちに遊ばせていました。確信は持てないのですが、『ニュルブルク・リンク』は「ホルテン」ショッピングセンターの地階にも短期間あったかもしれません。

筐体はかなり風変わりで、赤いシグナルのある、長方形のアップライト型でした（縁が銀色の金属保護柵で覆われていたかも？）。前面にはステアリングと、とても小さな（17インチ？）カラーモニターがありました。また本体正面には座席が据え付けてあり、そこにアクセルペダルと（こちらは定かではないですが）ギアシフトレバーがありました。筐体（の横だったか）には白い文字で "Nurburg Ring" と書かれていました（白いチェッカーフラグも描いてあったかもしれません）。

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|     |
|    :|
|    :|               ←画面
|    :|
|     |.              ←ボタンの列
|     | |       .-.
|     |=|       | |   ←ステアリング
|     | |       | |
|     |    _____|_|
|     |   {       |   ←座席
|     +-------------|
|     !             |
|_____!_____________|

座席のことはあまりよく覚えていませんが、プラスチックまたは金属製の黒い椅子（とても硬くて座り心地が悪かったような？）か、上部が黒い単なる長方形の箱に座らせていました。私が覚えているのは、この箱にときどき座っていたことだけです（カールシュタットの「フォローミー」で、ビデオゲームが空くのや、スタッフが電源を入れてくれるのを待っている間だったかに）。

画面はラスター表示の3Dグラフィックス（走査線あたり4色か8色だったような）で、ダークブルーの道路と黄色い縞のセンターラインが描かれていました。また（ロールスロイス的な／古めかしい感じの）車の赤いボンネットが見えていました。背景には曇天と（『ポールポジション』に似た感じの）2Dビットマップの景色があって、これはカーブを曲がるときに水平にスクロールします。他の車は路上に一台もなく（！）、また左右に何か障害物があった記憶もありません。

こういうグラフィックスの下に、4cm 高くらいの黒い空間があり、とてもカクカクした黄色い数字（と水平表示のスピードメーター）が表示されていました。同じくらいの高さの真っ赤な、不透明のオーバーレイがそこに被せてあって、いくつか開いた長方形の穴からその数字などが見えていました（オーバーレイには（白い？）文字で数字についての説明があったかもしれません）。タイトルロゴやコピーライト表記などはなく、画面に映る文字類はそれが全てでした（初期のアタリ2600作品みたいな感じです）。今思うと、MAMEでプレイできるアタリの『ナイトドライバー』にとても似た、制限時間式のゲームだったのではないかと思います。

筐体の画面下には四つ（？）の小さなボタンが一列に付いており、これで風景を山岳にするか丘陵にするか選ぶことができました（アトラクトモード中でも即時切り替え可能）。山岳の場合、コース画面に（Ｓ字？）カーブが増えるかわりに、コースのアップダウンがなくなります（『アウトラン』とは逆ですね）。緑の背景全体を見渡すと、山頂部が小さく茶色に見えていたのをはっきり覚えています。他のボタンではたぶん、天候の良し悪し（悪天候は雨？雪で凍結路面？）を選ぶことができました。また別のボタンでは素面か酔っ払いかの選択ができました（ステアリング操作がもっと難しくなるのでしょうか？）。各ボタンを押すと黄色く点灯したように覚えているのですが（電球が入っていたのでしょうか？）、ボタンは単に白色（？）で、近くに黄色いLEDが配置されていたのかもしれません。

下の手描き２枚をご覧ください。記憶する限り、グラフィックスはかなりこれに近い感じです。


丘陵モードのゲーム	山岳モードのゲーム

私が見た『ニュルブルク・リンク』の一台は青味がかった白黒モニターだったかもしれないのですが、たぶん単なる記憶違いでしょう。このマシンにコインを入れてプレイした記憶はないのですが、やっていたとしても人生で２～３回といったところです。コインスロットは一箇所で、小さなシルバーの金属プレートの上にあった（チューインガムやコンドームの小さな自販機みたいな感じです）ように覚えていますが、詳細には確信が持てません。

誰かこのマシンについて覚えている人はいないでしょうか？　これはドイツ国内専用の商品だったのかもしれませんし、あるいは国外では違う名前だったのかもしれません。『ニュルブルク・リンク』はドイツのF1レーシングコースの名前ですから（ゲームのグラフィックスはぜんぜんF1レースっぽくないのですけど）。もうひとつ覚えているのは、1980年代初期にテレビのニュースで紹介されていた、研究用ドライビング・シミュレーターのグラフィックスが、このゲームととてもよく似ていたことです。

『ニュルブルク・リンク』は（『スピードフリーク』と同じくらい）間違いなくとても古いもので、これがドイツ国内だけで発売されいたのか世界でも知られているのか知りたいと思っています（エミュレータで動けばいいなとも思いますが、今やってもそんなに面白いものではないでしょう）。

アーケードの謎、解明。

親切な方々が、eBayの出品写真や、別バージョンについてのフランス語フライヤーをメールしてくださいました。eBayに出たドイツ版のマシンは『フォーメル1・ニュルブルクリンク』という名前で、ドイツ・グンマースバハにある、ライナー・フェルスト有限会社が提供していたものでした。素晴らしいことに、この会社はまだ健在で、しかも実用ドライビング・シミュレーターだけを製造しています！

こちらをご覧ください: http://www.drfoerst.de/

ジ・アーケード・フライヤー・アーカイブ にて、さらに『ニュルブルクリンク1』『同2』『同3』のドイツ語フライヤーも発見しました（高解像度版のフライヤーがダウンロード可能）。これによると、ドイツでのディストリビュータはSPOBAG( = "Sportstatten-Betriebs-AG" 訳すと「スポーツ設備運用株式会社」)という名前だったことが分かります。

『ニュルブルクリンク1』『同2』のフライヤより。内部にかなりの電子部品が組み込まれた印象的な写真。ラックには28枚の基板が収まっている。

『ナイトドライバー』と極めて似たグラフィックス。アタリはこれをコピーしたのだろう。英語版のナンバーディスプレイは左から {km, goal, mistakes, seconds, free ride} の五つ。

『ニュルブルクリンク1』は、アタリ『ナイトドライバー』に酷似しており、黒い背景に左右一組のポールだけで、三次元感のある走路を表現しています。『ニュルブルクリンク2』は基本的に同じゲームですが、ステアリングの代わりにバイクハンドルが付いています。フライヤーによると、シミュレートされた車体にはスピードメータ、キロメーター、4段階のオートマチックギアシフトがあるとのこと。90秒走るかゴールに到達するとゲーム終了だそうです。ゲームでは運転中のミス（クラッシュ）がカウントされ、持ち時間に対するペナルティとなります。腕のいいプレイヤーは、、速くゴールに到達することで、もう一回フリーで遊べるそうです。またサウンドエフェクトもあります。ライナー・フェルスト工学博士は社史のページで、「1975年の『ニュルブルクリンク1』ドライビング・シミュレーターはすぐにアメリカのゲーム産業でコピーされた」と書いています。となると本当の意味で『ナイトドライバー』のコンセプトを発案し、さらに世界初の3次元カーレーシング・ビデオゲームを生み出したのは、彼だったということになるでしょう。

続編『ニュルブルクリンク3』の内部にも、まだ25枚の基板が見られる。

コントロールパネルにはやはりボタンが。残念ながら色彩までは分からない。

フライヤーの撮影写真を手直ししたもの。白いガードレールがくっきり見える。ダッシュボード前の赤いはずの部分をみると、これは白黒版なのかもしれない。数値の表示が前作と同じなので、この写真は開発中に撮られた可能性もありそうだ。

続編『ニュルブルクリンク3』は昼間の風景になり、よりリアルな路面とガードレールが備わりました。フライヤーによると、シミュレートした車はギアシフトあり、時速100km/hまでの加速に7秒、最大時速220km/hという仕様になっています。ボタンでオートマチックとマニュアルを選択でき、レーストラックも簡単なコースから危険なコースまで選択できます。技術があれば、コンポーネント（ROMまたはROMカードでしょうか）をひとつ交換するだけで、レーストラックを変更することもできます。ゴールを通り抜けると、静かな短いメロディが演奏されます。あらかじめ設定された周回タイムを突破できれば、もっと長いメロディが流れ（たしかドイツのマーチ曲『So leben wir alle Tage』だったと記憶しています）、もう１回フリープレイできるようになります。ゲームプレイの他の部分は『ニュルブルクリンク1』と同様のようです。興味深いことに、画面下方は使用されておらず、ベゼルで覆われているように見えます。これはつまり、描画を一部省略することで、その間の走査線区間をゲームプログラムの内部処理に回していると考えていいでしょう。アタリVCS2600のゲームでよく見られたテクニックです。RAM容量が足りないとき、グラフィック用RAMまたはレジスタを他の計算に用いているわけです。このとき、覆われた箇所にはたぶん滅茶苦茶なピクセルが敷き詰められているはずです（1970年代のビデオゲームは数十バイトのRAM容量しか持てないことが多々あり、それでどうにか上手くやりくりしようということで、こんなダーティなハック技が必要とされたのです）。

このアーケードマシンは長期間にわたって、多種多様なバージョンがリリースされていたようで、どのフライヤーの写真も私の記憶と完全には合致しません。しかしビデオグラフィックス、大きなステアリングホイール、ギアシフトレバーはしっかりと合致しますし、フライヤーには筐体横に貼るデカールをオプションで注文できるとも書いてあります（これが私の覚えている白いチェッカーフラグだったのかもしれません）。記憶にある座席も、トラクターシート（黒い薄金の自転車サドルを大きくしたような形状）を、アップライト版『ニュルブルクリンク3』のコインドアにねじ止めしたものだったのかもしれません。フライヤーに載っている画面写真は白黒ですが、筐体の後ろに描かれたイラストの色彩（黄色い縞模様、赤いボンネットとタンクキャップなど）は、私の思い出にあるカラー版の画面配色と一致しています。これの続編はカラーCRTを採用し、配色も同じにしていたように見受けられます。しかしそのフライヤーには水平線の向こうの山岳がありません。私は別のバージョンでそれを見ているはずなのです。

これは『フォーメル1・ニュルブルクリンク』という名の続編と思われる。スクリーンショットは手直しして見やすくしている。

上のeBay出品写真にある、山岳も表示されているマシンは『フォーメル1・ニュルブルクリンク』と名づけられていたようです（「フォーメル1」は「フォーミュラ1」のこと）。もうひとつ興味深いのは、フロントガラスのフレームがすでに画面にあることです。アタリがアーケードで出したポリゴンゲーム『ハードドライビン』に先んじて、これが実装されていたのです。『ニュルブルクリンク』と同様に、『ハードドライビン』も元はプロ用ドライビングシミュレーターから派生したと言われています。ということは、もしかするとライナー・フェルストの会社もまたその開発に関わることになったか、あるいはアタリに再び彼のシミュレーターが模倣されるかしたのかもしれません。

残念なことに『ニュルブルクリンク』シリーズのゲームはどれも、まだMAMEで再現されていません。今日の視点からプレイするとかなり退屈なものではあるでしょうが、それでも『ニュルブルクリンク1』は歴史的重要性の高さからいって、エミュレートするに値します。なぜなら世界最古の3Dカーレーシング・ビデオゲームがこれであると考えられるからです。その他の『ニュルブルクリンク』シリーズもぜひエミュレートされてほしいと思っています。『ポールポジション』ほど先進的ではないにせよ（対向車がなかったり）、おそらくそれより早く世に出て、マルチカラーのラスター映像で路面を表示した世界初の3Dカーレーシングゲームとなったからです。

【日本語版注釈】

世界初の3Dレーシングゲームは、アタリ『ナイトドライバー』だとよく言われますが、識者の間ではデジタルゲームズ／マイクロネティクス『ナイトレーサー』がそのオリジナルであることが知られています。こちらの開発者は、後に『スターファイア』を手がけるテッド・ミション氏。実は彼こそが『ニュルブルクリンク1』をアメリカで模倣した当人なのです。彼はどのようにして『ニュルブルクリンク1』を知ったのでしょうか。このあたりの詳細はキース・スミス氏のブログやランス・カーター氏のブログで読むことができます。以下、両ブログを参照しつつ大要をまとめてみます。

ミション氏は当時デジタルゲームズの社員として働いており、彼が設計した『エアコンバット』というゲームを修理するため、1976年8月に西ドイツへ派遣されていました。そのときとあるボーリング場に『ニュルブルクリンク1』という見知らぬゲームがあると聞いて立ち寄ったのです。そこで偶然フェルスト博士とも出会っています。

本国に帰ったミション氏が、上司に『ニュルブルクリンク1』の話をしたところ、そっくりそのままコピーするよう命じられました。こうして生まれたのが『ナイトレーサー』だったのです。これは同社内で大変な好評となり、ミッドウェイとアタリにも売り込まれることになります（もちろんフェルスト博士には何の相談もなく……）。ミッドウェイ版は『ミッドナイトレーサー』および『280 Zzzap』という名で知られており、開発・製造はデイヴ・ナッチング・アソシエイツが担当しました。ミション氏も一部協力しています。

『ニュルブルクリンク1』の関連特許を読むと、博士は「汎用デジタルコンピューターを使うと高価になりすぎて普及の妨げになる」と主張していたことが分かります。事実『1』『2』はCPU非搭載のアナログ設計（！）でした。このため部品点数がきわめて多くなってしまい、製造スピードを上げられないことが、博士の悩みの種でした。しかしアメリカのビデオゲーム業界ではまさにこの年、マイクロプロセッサ革命が起きていたのです。CPUチップはもはや高嶺の花ではありませんでした。しかもデイヴ・ナッチング・アソシエイツは、世界初のCPU採用ゲーム『ガンファイト』を作り出したメーカーです。ミッドウェイ版は当然のように、CPUベースで再設計されることになりました。

CPUの採用に積極的だったのは、アタリも同様でした。『ナイトドライバー』に関しては、ゲームデザイナーであるデイヴ・シェパード氏が「開発に当たって同じようなゲームのフライヤーを数枚見せられた。たしかドイツ語で書かれていたか、あるいは誰かがそれはドイツのゲームだと話していたように記憶している。ゲームそのものが動いているところは見たことがない」と述懐しています。フライヤーが『ニュルブルクリンク1』のものであったことは間違いないでしょう。そんな乏しい紙資料だけから独自解釈で生み出されたのが『ナイトドライバー』だったわけです。デジタルゲームズは、アタリに対してあまり開発面での協力はしなかったということのようです。しかし皮肉にも、ゲームとしての評価がもっとも高いのはアタリ版だったりします。ちなみに『ナイトドライバー』には、当時アタリの専売特許だったスプライト技術が組み込まれており、ナムコ『ギャラクシアン』のスプライト回路はこれを参考にして組まれたというエピソードもあります。

CPUベースのコピー品たちは、量産性がきわめて高く、あっという間に『ニュルブルクリンク1』の市場を食い荒らしてしまいました。しかもこれらは無許諾の模倣品であり、博士の手元にロイヤリティが入ってくることはありませんでした。それでも博士のドライブゲームへの挑戦は続きます。1980年には『ニュルブルクリンク3』とともに、その可動筐体バージョンである『ニュルブルクリンク・パワースライド』『ニュルブルクリンク・ターンテーブル』が発売されました。前者はセガ『アウトラン』ばりの左右可動筐体、後者はコアランド『WECル・マン24』ばりの回転可動筐体で、両作品に5年以上先行してこんな作品が登場していたというのは衝撃的といえるでしょう。ちなみに『3』はさすがにCPUを採用しており、Z80が搭載されています。

1982年頃には『ニュルブルクリンク4』がリリースされています（本文中で『フォーメル1』と呼ばれているものです）。設計を簡素化するとともに、グラフィックスが大きく強化されました。また『パワースライド』の強化版『パワードライブ』や、バイクを模した筐体の『バイクトレーナー』も発売されています。翌1983年には驚くべきことに、ナムコ『ファイナルラップ』の先駆けともいえる世界初の8人同時通信プレイ型ドライブゲーム『ニュルブルクリンク・コンペティション』を発売しています。

しかしこの年、西ドイツに災厄が訪れます。公的な場所へのビデオゲーム設置を禁止する法律が施行され、ゲームセンターも18歳未満は入場禁止となり、国内のアーケード産業は壊滅状態になってしまったのです。『ニュルブルクリンク』シリーズも多くが廃棄されてしまったといいます。フェルスト博士はこの時点でビデオゲーム産業に見切りをつけ、以降実用シミュレーターに注力しています。

※この記事はChristian Oliver氏の執筆したこちらの記事を、著者の許諾を得てhally/VORCが翻訳したものです。

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