VGM or Chiptune of The Year 2001


【Chiptune】…この単語に接して一年と経たない自分が言うのも何ですが、今年はVGMとチップチューンにとって本当に実りの多い一年でした。オールドスクールはノスタルジアではないし、今も力強く息づいている…そんな思いを強くさせられる一方、過去の名作が一人歩きするだけの日本のオールドスクール事情に幻滅させられた一年でもありました(日本発のニュースの少ないこと)。さて、VORCでは今年のリリースや出来事のうち、特に印象深かったもの十件をピックアップしてみました。まだ知らないことが残っていたらぜひチェックしてみてください。
1. "FX EP" by Virt
弱冠19歳のVirtことジェイコブ・カウフマンは、以前からGAMEBOYミュージッククリエイターとして高い評価を得ていました。しかし彼が音楽を担当したゲームのほとんどが発売されなかった日本では、まったく無名なアーティストです。"FX EP"は、仕事とは無関係にリリースされたMODなのですが、ここ日本ではMODの知名度もそう高くなく、まして海外のMODシーンにチップチューンスタイルの伝統があることなど、ゲームミュージック通の間でもあまり知られていません。このリリースは、あらゆる点で日本のゲームミュージックリスナーの盲点だったといえます。しかしこれは、日本のリスナーにこそ正しく評価できるはずの作品なのです。ファミコン版悪魔城ドラキュラシリーズの架空のサウンドトラックとして書かれたこの作品群(一曲除く)は、すでに本家コナミにもできていないであろう正統派コナミスタイルを踏襲した傑作です。それが海外からリリースされたことはさらに興味深い点です。海外のミュージシャンも日本のオールドスクールを理解しており、その方法論で優れた作品を書くこともできると裏付けられたわけです。オールドスクールをノスタルジアとしてしか認識できないミュージシャンやリスナーが多い日本は、すでに過去のゲームミュージック大国なのではないでしょうか…そんなことを考えずにはいられない強烈な作品でした。

2. analogik 変転の一年
MODシーンのチップチューンといえば、Virtと並んで重要なのがこのanalogikレーベルです。日本のゲームミュージックリスナーにしてみれば、ヨーロッパ諸国に優れたアマチュアチップチューン作曲家がこんなにいると知るだけでも驚きですが、その中心人物nagz(これまた19歳)が今年4月に放った大作「Chinqua」は、演奏時間(8分)でも曲想の豊富さでも、チップチューンの歴史に残る一作となりました。今年はこのanalogikが大きく変転した一年でもありました。5月以降の沈黙…そして大幅なメンバー交代による復活(9月)。Vhiiulaほかの強力なメンバーたちの動向には、来年も目が離せません。

3. Aleksi Eebenのさまざまな活躍
Aleksi Eebenの活動歴は10年以上に及びます。AMIGA初期からheatbeatという名義でテクニカルなMODを多数リリースしていたことで有名です。AMIGA時代のリリースにチップチューンはそれほどありませんが、近年AleksiはCOMMODORE 64/VIC-20, GAMEBOYなどの8ビット機に活動の中心を移し、ミュージックエディターや音楽データを意欲的に作成しています。MODで名を馳せたミュージシャンが敢えて8ビット機に移行するケース自体まず珍しいのですが、リリース作品の円熟したテクニックとクオリティの高さを耳にすれば、それが後退ではなく前進であると分かることでしょう。今年はCOMMODORE 64用の音楽作成ソフト「John Player」をリリースしたり、GAMEBOY ADVANCE用の各種ツールを開発したりで、プログラマーとしての才覚を示した一方、mp3.comにおいて8bit機によるチップチューンを多数公開し、ミュージシャンとしての健在ぶりを知らしめました。なかでもCOMMODORE VIC-20によるダイナミックなドラムンベース「The Four Voices」「3583 Bytes Free」は驚異的です。クラブスタイルのチップチューンとしては、本年のベストリリースといっていいでしょう。

4. Paragon5 Tracker 発表
これまでに挙げたVirtとAleksi Eebenは、どちらもParagon 5というゲーム会社に所属しています。Paragon 5は他にもbeek (Chris J.Hampton), Mystical (Asbjorn Andersen) KeyG (Konrad Gmurek)など、多数の実力派アーティストを擁し、GAMEBOYの音楽シーンを語るうえで欠かせない存在となっています(もっとも不思議にGAMEBOYの音楽シーンが語られない日本では、その存在すらほとんど知られていませんが)。Paragon 5では自社製のWindows用高性能ミュージックエディターを用いてGAMEBOYの音楽データを作成しています。長い間門外不出だったそのエディターが今年10月、ついに公開され、GAMEBOY用ミュージックエディターのスタンダードとして普及しつつあります(ところでParagon 5は日本での業務拡大に非常に意欲的です。この強烈な個性が浸透すれば、停滞している日本のゲームミュージックシーンも新たな局面を迎えるものと信じて、VORCはParagon 5を支援しています)。

5. GAMEBOY世代のチップチューンが発展
Windows用のParagon 5 Trackerに対して、GAMEBOY実機用には、nanoloopにLittle Sound DJといった音楽作成ソフトの決定版が登場しました。特にサンプリングの充実したLittle Sound DJは、それまでチップチューンに縁のなかった人々や、ライブミュージシャンたちまでをも取り込み、新しい世代のチップミュージックシーンを生み出しつつあります。ライブ/クラブ志向のチップチューンは北欧で開花しつつあり、ゲームからもデモからも離れたチップチューン時代の到来を予感させます。

6. MSXミュージックシーンの快進撃
あらゆる8ビット機の音楽資産がPC環境で整備されていくなか、やや置いてきぼりの感が否めなかったMSXでしたが、今年になって一気にそれが払拭されました。MSX自体も公式エミュレーターが登場するなど、例年になく盛り上がった一年でした。

  • 3月 Winamp/KbMediaPlayer用のプラグインNEZplugがMSX用外部音源カートリッジ「MSX-Audio」に対応。
  • 8月 Winamp/KbMediaPlayer用プラグインMSXplugが各種国産音楽フォーマットに対応。
    MSXはほとんど唯一、国内のアマチュアミュージシャンが活発に活動しているチップチューンシーンですが、MSXplugのおかげであらゆるチップチューンファンにその世界が開放されました。日本きっての実力派、なると氏のデータをWindows上で直に演奏できるようになったことは特筆に価します。
  • 9月 GXSCC β93公開。
    巷にあふれるMIDIデータがSCCやOPLLといったMSXの拡張音源の音で聴けてしまうというものです。MSXの内臓音源シーンと直接関係はありませんが、チップチューン世代の資産はこういう形で活かすこともできるのだということを教えてくれます。
  • 10月 MSX音楽データのコレクションサイトKSS Kingdomがオープン。
    日本とはまったく異なる海外のMSX音楽文化に触れることができるようになりました。


7. 今年も話題の多かったCOMMODORE 64シーン
もっとも活発な8ビット機はといえば、文句なくCOMMODORE 64です。このシーンでは今年も変わらず多数のリリースがありました。特に印象的だった出来事は、やはり以下のふたつではないでしょうか。

  • C64 Protal発足(5月)。
    日本からCOMMODORE 64シーンの動向を掴むのは難しいものでしたが、このゲーム/デモ専門のニュースサイトの登場で、その活況ぶりがダイレクトに伝わるようになりました。
  • GoatTracker発表(10月)。
    これにより、エミュレーターを通すことなく、WindowsからダイレクトにCOMMODORE 64用の音楽データを作成できるようになりました。これは音楽エミュレーションの大きな一歩といっていいでしょう。発表直後に行われたGoatTrackerコンポのリリース作品がその威力を証明しています。


8. mck 登場
国内に絞れば、これが今年一番の出来事だったかもしれません。なにしろリスナーにとってファミコンの音源は、長年ファミリーベーシック以外に手を出す術のないものでしたから。こうしてmmlで扱える時代を夢見ていた人は多いのではないでしょうか。まだ作品らしい作品がほとんどリリースされていませんので、来年はシーンとしてのmckに期待したいところです。

9. 著名なオールドスクール作曲家のトリビュートページが登場
音楽エミュレーションの発達により、データを完備したトリビュートページが増えました。去年11月にスタートしたChris Huelsbeck Legacyを皮切りに、The Complete Works of Rob Hubbard(5月), The Follin Drome(10月)などが誕生しています。いずれもCOMMODORE 64のパイオニアたちです。日本人ミュージシャンのトリビュートサイトもいつか登場して欲しいものです(権利の問題で難しいことは分かったうえで)。

10. GAMEBOY ADVANCEのゲームミュージックとVirtの解答
GAMEBOY ADVANCE発売(3月)と同時に、GAMEBOY ADVANCEのVGMシーンも今年スタートした…はずです。発売から半年以上経過しましたが、スペックを有効に使ったVGMに出会ったという話はまだほとんど耳にしません。先述のVirtが12月に公開した新曲は、そんなシーンに対する解答のひとつになっています。ここでもVirtは、現在のコナミには不可能であろう、コナミらしい使いこなしとフレーズを成し遂げています(いくつかはファイナルファンタジースタイルですが)。


次点. 新フォーマット登場
SEGA MASTER SYSTEM/GAME GEARのVGM形式(8月), ATARI STのSC68形式(9月)。これらが今年登場した二大フォーマット/プレイヤーでしょう。どちらも根強いファンに支えられているだけに、来年も目が離せません。偏ったタイトルばかりが評価されがちなSEGA MASTER SYSTEMミュージックの全体像は、VGMファンにとってこのうえない収穫となることでしょう。

番外. VORCスタート
まだスタートして三ヶ月あまりですが、この一年にVORCでお伝えしたニュースが、VGM/Chiptuneリスナーにとって意義あるものになっていれば幸いです。


以下、皆様からお寄せいただいた「今年VGM/Chiptuneの世界でもっとも印象的だった出来事」を紹介させていただきます。
ご協力ありがとうございました。

[文責:Hally]

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